はじめに – 私のブリスベン経験

1999年12月8日、世に西暦2000年問題のかまびすしいまさにその時、オーストラリア、ブリスベンの地に降り立った。かの地で英語学校を経営するためである。自分で言うのもなんだが、ちょっとした英語教室ではなく、れっきとした政府公認の、学生ビザも発行できる英語学校である(もっとも当初、学生は8人しかいなかったが)。日本では事務機の輸出入に携わり、海外経験はかなりあったものの、教育産業の経験は全くなく、出張ではなく、海外で腰を落ち着けて生活するのも初めての経験であった。

それゆえの失敗もたくさんあったが、2017年11月に日本に帰国し、第3の人生(渡豪前の会社員としての人生、オーストラリアでの英語学校経営者としての人生、そして今、再び日本で新しい目標に向かう人生)を生きる身の今となっては、すべてが良い思い出となった。そんなブリスベンでの生活の一端をみなさんにご紹介させていただきたいと思う。

オーストラリア第3の都市 ブリスベン

まずは、ブリスベンという街である。

オーストラリアの都市というと、シドニー、メルボルン、パース、ゴールドコースト、ケアンズあたりまではみなさんよく(あるいは名前程度は)ご存知だが、ブリスベンとなると途端に知名度が落ちてしまう。

仕事で海外経験の多い方は別にして、一般の方に「ブリスベンってご存知ですか?」と聞くと、たいてい「え~っと、名前きいたことくらいあるかなぁ」という答えが返ってくる。ブリスベンがオーストラリアのどこにあるかはまずご存じない。そこで、まずはブリスベンの街の概略をご紹介しよう。

  1. ブリスベンはクィーンズランド州の州都。オーストラリア東海岸のクィーンズランド州とNSW州のほぼ州境に位置している。
  2. 街の中をブリスベンリバーが蛇行して流れ、別名リバーシティ(ただし、水は濁っていて、雨の日や曇りの日は泥水のように見える)。
  3. ブリスベンの人口は約200万人から230万人くらい(非常にアバウトな数字だが、ブリスベンに住んでいるオーストラリア人に聞いてもほとんどの人は知らない。気にもしていない。統計を見ればある程度分かるのだろうが誰も見ない)。いずれにしても、人口的にはシドニー、メルボルンに次いでオーストラリア第3の都市である。

ブリスベンの特徴

ブリスベンの特徴はというと

  1. 亜熱帯性気候のため非常に温暖で過ごしやすい。真冬でも、天気が良ければ日中の気温は20度~22度ほどになる。

    夏はやや暑く、33度~36度くらいであろうか。ただ、日本の夏より湿度が低いので、数字から想像するよりは過ごしやすい。もっとも、ひとたび熱波到来となると40度以上になるが。

  2. 気候とも関連すると思うが、みんなのんびりしていてフレンドリーな人が多い。気候がいいから、少なくとも衣食住の「衣」の心配はあまりしなくてよい。ブリスベンのオージーは、真冬でもTシャツにショートパンツという人が結構多い。

    「住」についても、雨風さえしのげれば、真冬でも、少なくとも凍え死ぬということはまずない。だからみんなのんびりしているんだろうと勝手に確信している。

  3. 治安が良い。オーストラリア全体が基本的に治安のよい国であるが、都市としては、シドニー、メルボルンなどの大都会に比べるとやはり治安が良い。

    感覚としては、日本の大都市と同じ感覚で街を歩けるという感じである。街を歩きながら常に緊張を強いられるということはない(とは言っても、世界中どこに行っても犯罪はあるので気を付けましょう。ブリスベンでも毎日交通トラブルから誘拐、殺人まで、色々な事件が毎日報道されています)。

  4. 観光スポットがない。だから観光客が来ない。ごく普通の生活都市。だから勉強したり仕事の経験をするには最適の街 (これは私の英語学校のビジネスで、留学希望者にブリスベンを勧めるときの常套句であった)。

    もちろん、「ブリスベンからちょっと足を伸ばせばゴールドコーストとかモートン島とか、楽しいところはいっぱいあるんですよ」というひとことを付け加えるのを忘れてはいけない。

  5. 多文化都市。ブリスベンは本当に多文化都市だと思う。特にアジア系(中国、台湾、ベトナム、韓国)や南米系(ブラジル、コロンビアなど)が多い。オージーも英語圏以外のバックグラウンドの人々を受け入れる寛 容さがある(もっとも人種差別する人は世界中どこに行ってもいるが)。

    シドニーから来たオージーなどは、シドニーはvery whiteだがブリスベンはvery darkだと言って驚いていた(これは人種差別的なニュアンスではなく)。あるいは、例えば私がブリスベンの街なかに立っていると、いかにもオージーといった人が私に道を尋ねてくることがよくあった。日本で言えば、日本人が金髪にブルーの瞳の外国人に道を尋ねるようなもので、まず日常あまり目にすることはないだろう。ことほど左様に、ブリスベンの人々は異文化に対して寛容である。

ブリスベンの観光スポット

さて、ブリスベンのあらましをご紹介するのに、すでにかなりの紙面を費やしてしまった。これから真面目にブリスベンのガイドをさせていただこうと思う。ブリスベンのガイドと言っても、先に述べた通り、ブリスベンには大して見るようなところはないが、とりあえずはコアラがたくさんいることで有名なローンパイン・コアラサンクチュアリーか。

ローンパイン・コアラサンクチュアリー

ローンパインはブリスベン市街から車で30分くらい行ったところにある動物園である。コアラで有名だが、ウォンバット、タスマニアデビル、カンガルーなどコアラ以外にもオーストラリア特有の動物がたくさん飼育されている。

カンガルーはカンガルーエリアで放し飼いされているので餌をやったり触ったりすることもできる。ある時など、私の子供だか、わたしの学校の学生だったか忘れたが、一緒にカンガルーを見ていた時に、いきなり目の前で繁殖行動を始めてしまい目のやり場に困ったことがあった。

ローンパインに行くときのお勧めの時間は午後3時ごろである。コアラは、普段は木につかまってじっとしているだけだが、午後3時ごろに餌やりがあり、その時だけは普段はあまり動かないコアラが活発に動くのである。動いているコアラを見たい方は餌やり時がお勧め。

マウントクーサ

さて、次は何があったっけ?とはたと考えてしまったが、やはりマウントクーサか。郊外も含めたブリスベン全域を東西南北見渡せる展望台がある。

ここもブリスベン市街から車で30分くらい。展望台は確かに眺めはよいが、四方見渡したらそれでおしまいなので、展望台で過ごす時間は10分くらいで十分だろう。あとはレストランやコーヒーショップで食事をしたりお茶を飲んだり。

ブリスベンの街全体を見渡せるので、お勧めは絶対に夜だろう。恋人同士で訪れれば、きっとロマンチックな雰囲気にひたれるだろう。「きっと、だろう」というのは、実は私は夜のマウントクーサには残念ながら行ったことがないからである。同じ公園内にプラネタリウムや植物園などもあって、家族連れで楽しむには良いところだと思う。

クィーンストリート・モール

それからクィーンストリート・モール。ブリスベンで一番賑やかなショッピング・モールである。レストラン、専門店、デパート、土産物の店、等々、なんでも揃っている。

ただ、ブリスベンで一番賑やかと言ってもその規模は日本で言えばちょっと大きな駅前商店街という感じかな、と個人的には思っている。でも、モールの中でイベントがあったり、ストリート・パフォーマーがいたりして結構楽しめるところである。

サウスバンク・パークランドとローマストリート・パークランド

それから、観光スポットというほどではないが、ブリスベンにはサウスバンク・パークランドとローマストリート・パークランドという大きな公園が2つあって、どちらの公園でも無料のバーベキュー機材が備え付けられていて、燃料も無料で使うことができる。

こういった無料バーベキュー機材はブリスベン郊外にあるビーチや公園にも備え付けられているので、ソーセージやパン、スナック、飲み物などを買い込んで、こういったビーチや公園で家族連れでバーベキューを楽しむ人たちが多い。

この写真はサウスバンクの中にある人工のビーチ。無料開放のプールである。オージーは、お金をあまりかけずに楽しむことが上手な人たちである。

ブリスベンの食文化

さて、観光スポットのあとは食文化だろう。

ブリスベンは多文化社会なので、世界各国色々な食事を楽しむことができる。ただ、逆にブリスベンあるいはオーストラリア特有の食事というとあまりない。やはりビーフステーキやラムチョップぐらいか。

いずれにしてもオージーの家庭での食事は基本的に非常に質素である。朝はシリアルにミルクをかけて一丁上がり。ランチはサンドイッチか前の晩の残り物。夜は基本的にはワンプレートミールである。

私の感覚では食べる量も日本人より少ないような気がする。だが、こんな質素な食事なのに中学生になるころから急にむくむくと大きくなるのはやはり遺伝子のなせる業か。

最後に、ブリスベンのレストランを2件ほど紹介しておこうと思う。

1件目はWara Waraというレストランだ。ブリスベン中心地のエリザベスストリートにある。これは日本の居酒屋の笑笑とは全く関係がない。オーナーの自由意思でお使いになっているようである。

日本人であれば、つい日本食のレストランを連想してしまうような屋号だが、実は日本食もどきのレストランである。さらに言えば、実態は韓国レストランである。

日本食を期待して行くと期待を裏切られて、2度と行かない、ということになるかもしれない。最初から日本食もどき、あるいは韓国レストランだと思って行くと、コストパフォーマンスはかなり高いのではないかと思う。ここのフライドチキンはボリュームがあって、かなりの大食家のかたでも食べきれないだろうと思う。

それからもう1件、イーグルストリートピアという、ブリスベンリバー沿いのレストラン街にGeorge’s Paragonというシーフードレストランがある。

ここは、料理も相当レベルが高いが、値段がうれしい。ブリスベンで、ちょっとしたレストランで食事をすると、メインの料理は大体40ドルから50ドル以上ということが多い。George’s Paragonでも大体そのくらいの値段だが、実はこのレストラン、ランチは毎日半額、ディナーも午後6時までに入店すれば半額で食べさせてくれる。半額でフルプライスと全く同じ料理を食べることができるのでかなりお得。

特にお勧めはシーフードクレープ。エビやイカなどのシーフードとクリームソースをクレープでくるんで焼いてある料理で、色々な方にお勧めしてすこぶる評判が良かった。川沿いにあって、ブリスベン市街も見渡せるので夜景も素晴らしいレストランである。

最後に

つらつらと思い浮かぶことを書き連ねてきたが、基本的にブリスベンは住みやすく見知らぬ人たちにも優しい街である。もし仕事や観光などでブリスベンを訪れる機会があれば、ぜひブリスベンの「なんでもない佇まい」を楽しんでいただきたいと思う。