「憧れの国」で経験した「別の側面」
私は2003年11月~2006年5月までフランスに留学をしていました。滞在都市はニース、パリです。
フランスは海外旅行でも人気の高い国ですし、情報も日本では入手し易いです。
私も留学する前は「好きな憧れの国」でしたが、現地へ行き「生活」をし始めると、日本では想像できなかった「フランスの別の側面」を垣間見ることがありました。
巷に溢れている「お洒落で素敵なフランス」の情報とは、相容れない個人的体験談かも知れませんが、印象に残っている体験を下記に述べたいと思います。
① 「宗教」が日常生活に深く根付いており、日本とは宗教の存在の意味が大きく違う。
日本にいる時は、自分の家系の信仰している宗教(大抵は仏教だと思いますが)を、殆ど意識をしたことがありませんでした。ですが現地で生活をしていると、「どの宗教を信じているのか?」を尋ねられることが度々ありました。
宗教が個人の「人生観」にも繋がっている彼らからすると、どの宗教を信じているのかを知ることは、とても重要だったようです。私が「特に何も信じている教えはない」と答えると、「それは理解できないし、何故?」と言われたことも多々ありました。
日本とは違い、それだけ「宗教」が日常生活に深く根付いている印象でした。
これからフランスへ駐在をする予定の方は、宗教についての一般的な知識・教養を身に付ける事と自分なりの「宗教についての考え」を述べられる様にしておくことをお勧めします。私は現地の方から宗教の話題(キリスト教・ユダヤ教・イスラム教の共通点や違いについて)をふられた時も、予備知識があったのでその話題について会話が出来ました。
また特にフランスでは、「自分の意見を言わない、言えない人間は何も考えていない」と判断され、相手にされません。何事においても、自分の考えを理論的に主張できる様に、訓練をしておいたほうが良いと思います。
② フランス国籍を持つが、中身は「フランス人」ではない人々や、EU諸国の外国人が溢れる多民族国家。それが隠れた「宗教・民族対立」を生み出す原因になっている、と感じた出来事。
フランスは、かつて植民地だった国の人々が「フランス国籍」を取得し易い国です(あくまで留学当時の話ですが)ので、マグレブと言われるアフリカの旧植民地出身者やベトナム人でフランス国籍を取得し、在住している人々が多くいました。
ですが彼らは「フランス人」になっても、自分達のルーツを守り続けます。自国の生活及び文化的習慣そして宗教など、民族のルーツを捨てることはありません。
そして特定の民族≒各宗教の信徒となっています。それが隠れた「宗教・民族対立」の原因になっていると思いました。
当時からフランスでは、移民系フランス人による暴動が起きていましたが、宗教が絡んだ民族差別が関係していると現地の知人から聞いたことがあります。また当時は学生として滞在をしていましたが、現地のクラスメイト・友人・知人との日常会話の中で、「宗教」が絡んだ「民族対立」を感じたことが多々ありました。
フランスは移民が多い「多民族国家」ですから、表面上は「自由・平等・博愛」の精神を標榜していますが、水面下では互いに対立意識を持っていると分かる会話が多々ありました。ルーツが違う者同士が「互いに歩み寄る、共感し合う」という概念が希薄だと、感じたこともあります。
その理由は、やはり「宗教」が強く影響しているからだと思います。自分達が信奉する宗教以外は基本的に認めないスタンスが、互いに敵対心を持ち、最終的に暴力的な行為という形で現れたのが、数年前にパリとニースで起きたテロ事件でしょう。
この事件は衝撃的でしたが、私が滞在をしていた頃からその火種はありましたので、「とうとう、ここまで来たのか」と思ったのが正直な印象です。
宗教と民族対立の件で印象に残っているエピソードがあります。それは当時、内務相だったサルコジ大統領がニースを訪問した際にデモが起き、マグレブ系のフランス人がこぞって参加して、彼のニース入りに大反対した時のことです。当時デモに参加した、マグレブ系フランス人のクラスメイトが「彼はフランスを第二のイスラエルにしようとしている。そんなのは許せない。彼はフランスにいてはいけない」と言っていたことは今でも覚えています。
イスラム教徒であるマグレブ系フランス人の彼女は、ユダヤ系であるサルコジ大統領(当時は内務相)に対して強い不信感があったようです。
余談ですが、彼は内務相時代に外国人の「滞在許可証」の発行を実質削減する政策を行い、私もその政策の為にビザの延長が大変だった思い出があります。
③ 最後に
私は学生の立場でフランスに滞在しましたので、駐在員の方とは違う視点で今回の原稿を執筆させて頂きました。専門的な話ではなく、一個人として滞在をし、生活をした中で印象に残っている出来事や感じたことを明記致しました。
海外へ行くと「外国人」という立場になり、何もない自分が如何に不利な立場になるか、特に「人種差別」をされた時には身に染みて感じました。その一方で当時困った時に助けてくれた方々には、今でも感謝の念に堪えません。
拙い文章ではありますが私の体験談が、今後海外へ駐在される方のお役に立てれば幸いです。今回、この様な機会を与えて頂き、誠にありがとうございました。
