JICA 青年海外協力隊で理科教師としてタンザニアへ

私がタンザニアに赴任したのはもう20年以上前にさかのぼります。

そのころ私は塾講師として働いており、長期休暇を利用して国内外をよく旅していましたが、より広い世界を見てみたくなり、電車の中吊り広告で見かけたJICA(国際協力機構)青年海外協力隊に志願してみることにしました。

動機としてはただ世界を見てみたい、というだけで、ボランティア精神にあふれていた訳ではありませんし、試験勉強もそれほどしませんでしたが、結果はまさかの合格。タンザニアに理数科教師として赴任せよ、との通知でした。まったく予想しなかった知らせに、一体タンザニアとはどこなのだ?と、地図で位置を確認したことをよく覚えています。

タンザニアはどこにある?

タンザニアはアフリカ東部、赤道の少し南に位置し、北はケニア、南はモザンビーク、西はマラウイ、ザンビアなどと国境を接する国です。

コーヒーの品種名にもなっているキリマンジャロ山はタンザニアとケニアの国境付近にそびえ、標高6000メートルに迫るアフリカ大陸最高峰として有名ですが、その時はそれすら知りませんでした。

任国への赴任前には訓練期間があり、体力トレーニングや語学研修など、ハードな環境で出発までバタバタと忙しく過ごしました。現在のようにYouTubeで情報を得られるような環境ではなく、タンザニアについてもろくに情報収集しないまま、出発を迎えたのです。

私を含めたタンザニア赴任隊員の一行は飛行機を乗り継ぎ、ようやくタンザニアの地に降り立ちました。アフリカの大地はやはり煤けて砂っぽいのだろうか、という先入観を持っていましたが、第一印象は「・・・いや、緑がいっぱいじゃないか!」良い意味で予想を裏切られました。タンザニアは熱帯気候とサバナ気候が混じり合った気候帯に位置しており、降水量は多めで、緑が非常に多いところなのです。

農村の中学校で教師と部活動の顧問

私の任地は首都から約700キロ離れた内陸の農村にある中学校でした。2000メートルほどの高地で、日本の春か秋のような気温が一年を通して続き、豊かな水と緑に囲まれ、非常に良い環境でした。

私はこの学校で物理と数学、そして部活動の顧問としてバレーボールとバスケットボールを教えていました。ここは寄宿舎を併設した全寮制学校でしたので、親の目が届かず、何もない田舎であったせいか、授業は大人しく受けるものの、それ以外では非常に元気で、そして少々やんちゃな生徒が多かったようです。

部活動の対外試合はいつもエキサイト

部活動ではよく対外試合がありました。百人ほどの生徒が大型トラックの荷台に乗って遠征するのです。私の厳しい指導のせいか(?)我々の学校は非常に強かったので、試合に負けた記憶はありません。

ただ、地元チームが負けそうになると誰かが乱入し、暴動になりかけたり、選手も先生も皆エキサイトしたりして、最後にはたいてい勝敗がうやむやになって終わるのです。驚くことに、帰路には道路に潜む誰かから投石(!)されたりもしました。

スマホなどまだなく、ようやく携帯が繋がったような時代です。おそらく娯楽の少ないであろう田舎の村では、このようなレクリエーションに賭ける熱がすさまじいのです。これが対外試合の恒例行事だと分かったのは、しばらく後のことでした。

休暇期間には旅行も

長期休暇期間には旅行も楽しみました。タンザニア北部、ケニアとの国境部にある広大な草原での動物観察サファリツアーは、タンザニアで最も有名な観光プログラムかもしれません。私も参加しました。非常に楽しかったことに違いはないのですが、テレビで見た光景そのままで、新しい体験や驚きはあまりないように感じました。

冒頭ご紹介した、キリマンジャロ山にも登りました。5泊6日の行程です。植物や水が見られるのは4000メートル位までであり、それを超えると何も無い荒野、まるで火星の大地かのような風景に変わっていきます。6000メートル弱の頂上まで登ると辺りは雪景色になります。なんとか登頂することはできたものの疲労困憊、酸素が明らかに薄く息も絶え絶えで、一刻も早く降りたい、と思ったものでした。

テレビではあまり見られないような辺境の旅も楽しかったです。マラウイとの国境にあるマラウイ湖を訪れた際には、湖の縦断航路に乗ろうと湖畔の村に行くと、桟橋と時刻表らしきものはあるものの、いつ船が来るのか誰もわかりません。これもタンザニアではよくあることでした。結局、3日間待ちぼうけののち、ようやく乗船することができました。

有意義な2年間でした

このような、ゆっくり流れる時間や文化の違いに戸惑ったり、授業がうまくいかず、私は果たして現地に貢献できているのだろうか、と悩んだりすることも時にはありましたが、現地の人々の優しさと明るさに支えられ、2年間の任期を楽しく、有意義に過ごすことができました。

タンザニアは当時も現在もアフリカ諸国の中では安全で、水と緑、美しい海、雄大な自然に囲まれた、ひときわ良い国だと思います。機会があれば、是非訪れてみてはいかがでしょうか。喜んでご案内させていただきます(笑)