2017年のご挨拶
2017年を迎え、あけましておめでとうございます。
2011年よりJAPPI会報記事を執筆させていただいており、本年で早や7年目を迎えます。OBACの社員並びにアドバイザーが、赴任した海外の地域および国について歴史・文化・国民性・習慣等を中心に、自分の目で見たこと、実際体験したことを、自由気ままに、時には多少の独断・独説をもって、記事を投稿させていただき、愛読いただきましたことに、深く感謝し厚く御礼申し上げます。2017年も継続投稿させていただくことになりましたので、よろしくお願い申し上げます。
一昨年末のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)合意から一転、イギリスのEU離脱国民投票、EU(欧州連合)の危機、アメリカにおけるトランプ大統領選出等、グローバリズムの資本主義経済がもたらした所得格差の拡大によって、世界各国で移民受け入れ拒否に見られる保護主義が一気に表面化した傾向にあります。
このような世界情勢の中にあっても、資源輸入国・少子高齢化の日本は、海外に進出する以外生き延びる方法はありません。よって本年は、こういった保護主義とは一線を画し、我々の赴任した国、訪れた国の魅力・良さをご紹介し、海外志向の機運を一層高め、JAPPI会員の皆様のお役に立てればと願っております。
自分が赴任した国・アメリカの魅力・特徴
* アメリカのダイナミズム
アメリカでは2017年1月に、オバマ大統領(民主党)から第44代目のトランプ大統領(共和党)に政権移行されます。大統領就任式(Inauguration)では聖書の上に手を置いて宣誓し、最後は神に祝福を誓います。正にアメリカはキリスト教の宗教国家である一面が強く出ます。
今後イスラム教徒、仏教徒の大統領が出現したら、どうなるのかと心配になりますが合衆国憲法規定では、キリスト教徒以外資格がありません。宗教の自由を認めるアメリカにおいても、やはりキリスト教(プロテスタント系)の影響力は絶大で、世界最大の経済国家、先進国家とキリスト教という宗教の深い関係が改めて認識させられるのが、大統領就任式です。
トランプ大統領については、約1年間の予備選挙、本選挙を通じて、日本でも盛んにマスコミに取り上げられ、紹介されて来たので、日本の安部総理大臣より良く知って、詳しい人も多いのではないでしょうか。
私がアメリカへ最初に赴任した1980年代はレーガン大統領(1981年-1989年)(共和党)の時代で、就任式もテレビで観戦し、感激したものでした。特にカリフォルニア州ロサンゼルスに勤務しており、ハリウッドの映画俳優が大統領になったというので、カリフォルニアでの報道は熱狂気味でした。レーガン氏も共和党の精神を踏襲した、保守本流の大統領で、トランプ氏の思想と共通点も多いと記憶しています。
一年前の大統領予備選から大統領就任式までの、アメリカ国内の興奮・過熱は熱狂的なスポーツ観戦と似ているところがあり、こんな形で、自分たちの大統領を決めて良いのかといつも疑問に思いましたが、一年間も激論を重ね、自分達の大統領を、国民投票の多数決で決め、たとえ僅差であってもその結果に皆が従うという、これがダイナミックなアメリカ流民主主義なんだと理解するようになりました。
トランプ大統領が保護主義を掲げ、世界の警察の役割を放棄し、一時的に国内至上主義になったとしても、イデオロギーの異なる社会主義国の中国、ロシアが大国として、存在する以上、アメリカの存在は今後も偉大で、資本主義社会のリーダーとして君臨することは間違いないと確信しています。
* 個人主義
アメリカおよびアメリカ人の特徴の一つとして、「個人主義」を取上げたいと思います。
この「個人主義」もトランプ大統領出現によって、日本の新聞・雑誌でも盛んにより上げられるようになりました。「個人主義」はどこの国、国民にも見られますが、アメリカおよびアメリカ人の場合は、「個人主義」の前に「徹底した」という文字を入れ、「徹底した個人主義」と表現するのが妥当ではないかと思います。具体的事例を紹介し、アメリカの魅力(場合によっては影)に言及したいと思います。
自由と平等の精神は1776年の「独立宣言」以来、一貫して受け継がれ、基本的人権と共にアメリカ憲法の根幹となっています。
現在は白人、黒人、ヒスパニック、アジア系その他多種多様な人種・文化を包括しながら、アメリカ合衆国として3億人の国民が価値観を共有し、共存共栄を図っていく時代になりました。
白人出生人口は既に過半数を割り、2043年には全体の白人人口が半数以下となることが予想されています。つまり白人の出生率は日本同様減少傾向ながら、黒人、ヒスパニックその他の人種の出生率が高い上に、移民の増加でアメリカ人口は全体で毎年2百万人から3百万人増加している、先進国で唯一の人口増加国なのです。

やはり自由と平等の価値観をもつ魅力あるアメリカを目指して来る移民が多いということです。オバマ政権のグローバル化促進とマイノリテイ‐への保護政策で、白人中間層(特にWorker)が自分達が犠牲になったと不満を一気に表したのが昨年の大統領選挙でした。
よってトランプ大統領が不法移民の強制送還、国内雇用の確保を言い出したのですが、元々グローバリズムを先導したのは、アメリカ企業であり、ITによる合理化と低賃金のアジア・新興国進出で、アメリカ国内のworkerの働き口が無くなるのは必然的、これまで中間層は、日本の中間層と比べて、比較にならない豊かな生活を享受して来ましたから、レベルを下げるのが我慢がならないのでしょう。
また高齢者も早い年齢からリタイアし、年金のみでのんびり暮らして来ましたが、受給年齢は徐々に上がり、生活も厳しくなり、こういったWorker、高齢者の受動的自殺(アルコール・麻薬等)が増加していると言われています。
アメリカは以前からアルコール・麻薬の中毒患者問題が社会的テーマとして取上げられ、対策の効果もあって、このような死亡者は、全体として減少傾向ですが、所得層別には、中間層、特に45歳から54歳の年代の自殺者が増加している現実があります。
政府に対して不満を持ち、マスコミの報道を全く信用しない人たちが、トランプ大統領に投票したと言われています。日本の様に、マスコミの報道を従順に受け入れる国民とは一線を化します。良い悪いは別として、個人の意見がしっかり自己主張されているということです。
ビジネスにおいても、アメリカ人は実にオープンで、売り手、買い手は平等との意識が強く、ビジネスアポを取れば、容易に面談を受け入れてくれますが、商談ではタフ、なかなか取引成立の契約まで行きません。
つまりアメリカ人は外面はソフトですが、内面はハード、個の部分のガードが固いということです。電話すればいとも簡単に会ってくれて、売り手の説明を聞いてくれるので、すぐ商談が成立すると期待し、裏切られたことを何度か経験しました。
逆に日本人は外面はハードですが、内面がソフト、外面が突き破られれば、いとも簡単に内面の心臓部まで入ってこられる脆さ、弱さがあります。
個が強いので、夫婦と言っても、男女平等が徹底され夫婦関係を維持する努力は日本人と比べて大変なものです。(最近の若い日本人もアメリカ的個人主義の傾向が出てきましたが)
* 開拓精神・自立性
18世紀にイギリスからキリスト教清教徒が東部(現在のボストン)に上陸し都市建設、また大陸を西に進み、原住民(アメリカン・インデイアン)と戦いながら、アメリカ大陸を横断し、西部開拓する時代に培われた開拓精神そして自立性は、アメリカ人の誇るところでです。
現在において、標準的一般家庭では、ベイビー誕生後間もない時より親と別の部屋で寝せますし、小学校時代から既に討論会(Debate)をやり、自由と平等の下に討論会を行い、子供のコミュニケーション能力を高めます。あの大統領選挙で見られたトランプ対クリントン討論会をやるわけです。Debateでは正しい事が勝つとは限りません。強い意見が勝ちます。
また大学生は成人の証として、いくら大学が自宅からの通勤圏としても、下宿し、アルバイトをして授業料・生活費を稼ぎながら、通学するのが一般的です。昨今の大学授業料の高騰で、大学生全体のローンが、アメリカ人全体のクレジットカード残高を上回るというショッキングなニュースも流れました。
他方では憲法で保証された「武装の自由」によって、何度銃乱射事件が起こっても、銃規制が強化されない、アメリカの負の遺産もあります。犠牲がいくら出ても「自分の身は自分で守る」精神が西部開拓時代から生き続けています。小学校や中学校で、暴力事件が発生すれば、生徒は護身用におもちゃのガンやナイフを所持し出し学校の評判が一気に低下し、転校生が続出したという事例もありました。
*個人と国家の存在意義、愛国心
多民族国家、多様な文化を包括するアメリカ合衆国は51州の州からなり、連邦政府と州がそれぞれ憲法・法律を制定し、一般的に州の権限が強いと言われています。よって州の広報活動、誘致活動は極めて盛んで、どんな分野にしろ、全米1位という名誉を獲得するため州同士の競争が激しいのです。
しかし、あのイラク戦争、アフガン戦争、テロ事件のごとく、いったんアメリカの敵が出現すると、アメリカ国民は大半が戦争を支持し、団結力を見せる強さがあります。
スポーツも同じですが、アメリカ国歌斉唱・星条旗掲揚は、人種を超え所得層を超えてアメリカが一つになり団結する時で、正に国家主義、グローバリズムはどこかへ飛んで行ってしまいます。
* 最後に
フランスの社会歴史学者のエマニュエル・トッド氏は、「アメリカは疲れており、崩壊過程にある」と言っています。自分が赴任して経験した、魅力あるアメリカ、世界のお手本であるべきアメリカが崩壊するなどと信じたくもありません。
しかし、世界の主要国(アメリカ、中国、ロシア、イギリスその他の国)が保護主義・国家主義になり、中でも最大の同盟国のアメリカが、トランプ大統領出現によって内向きになって行くと、自分が知っているアメリカ・アメリカ人がどう変わっていくのか、不安を抱きながらこの原稿を書いた次第です。
